酒類販売業免許取得は個人でも可能?法人とどちらがいい?
更新日:2024年7月3日
酒類販売業免許(酒販免許と略されることが多い)を取得して事業を始めようとする際、個人名義で取得するか法人名義で取得するかで悩む方が多いかもしれません。
本記事では、酒類販売業免許の個人・法人それぞれの申請について解説します。
◆もくじ◆
個人と法人の酒類販売業免許取得申請
そもそも、個人名義でも法人名義でも酒類販売業免許の取得は可能なのでしょうか。
結論から言うと、個人事業主でも法人でも取得が可能です。
どちらがいいか迷った場合は、「事業を行う主体」に合わせて適切な名義で免許を取得することが大切です。
では、個人での申請と法人での申請では何が違ってくるのでしょうか。
酒類販売業免許の取得にあたり、個人の申請と法人の申請では審査対象が異なります。
酒類販売業免許の主な要件のうち、人的要件と経営基礎要件については、個人申請の場合は申請者本人が、法人申請の場合は法人自体とその役員全員が審査対象となります。
人的要件
人的要件とは、申請者または法人とその役員が、一定の条件を満たしていることを確認するものです。
具体的には、過去2年間に税金の滞納処分を受けていないことや、酒類販売業・製造業免許の取消処分を受けていないことが求められます。
取消処分を受けた場合は、取消処分の日から3年以上が経過している必要があります。
個人申請の場合、これらの要件を満たすのは申請者本人です。
一方、法人申請の場合は、役員全員がこれらの条件をクリアしていることが必要です。
このように、法人申請では個人申請よりも多くの人が審査対象となるため、審査のハードルが高くなります。
申請に必要な添付書類
酒類販売業免許を取得するためには、申請書とともに添付書類を提出する必要があります。
人的要件と経営基礎要件の部分について、個人申請と法人申請では求められる添付書類が異なるため、注意が必要です。
①個人申請の場合のみ必要となる添付書類
個人で申請する場合は、最近3年分の個人の所得が分かる書類(確定申告書、源泉徴収票)が必要です。
確定申告をした方は確定申告書、給与所得がある方は源泉徴収票を提出します。
両方該当する方は、確定申告書と源泉徴収票の両方を提出する必要があります。
②法人申請の場合のみ必要となる添付書類
法人で申請する場合は、定款の提出が必要です。
また、法人申請の場合は役員全員の履歴書も必要となります。
ここで言う役員とは、登記事項証明書に記載されている役員であり、社外取締役や監査役も含まれます。
添付書類を揃える際は、各書類の正確性と最新のものであることを確認しましょう。
法人成りと個人成りの手続き
「今は個人事業主だけど、経営が軌道に乗ったら会社を設立したい」と考える人は多いでしょう。
その場合、法人成りの手続きが必要になります。
酒類販売業免許は、個人から法人に引き継ぐことが可能です。
ただし、法人成りの場合、個人の免許の取消申請を行い、新たに法人で免許を取得するため、実質的には新規の取得と同様の手続きが必要です。
免許条件は、基本的には同じ内容で引き継ぐことができます。
一方、法人から個人事業主に戻る場合は「個人成り」の手続きが必要です。
法人で取得した免許を取り消し、個人事業主として新たに免許を取得することになります。
これも新規申請と同様の手続きを要します。
法人成りや個人成りの場合、酒類販売業免許の取消申請と新規申請の両方を行う必要があります。
この手続きを行うことで、法人成り・個人成りの場合でも、途切れることなく酒類販売業を続けることが可能です。
酒類販売業免許取得の費用
酒類販売業免許を取得するためには、開業する場所を管轄している税務署で手続きを行います。
小売業免許の場合、1申請あたり30,000円の登録免許税がかかります。
卸売業免許の場合には、1申請あたり90,000円が必要です。
さらに、複数店舗や販売場所が異なる場合には、それぞれの店舗ごとに申請を行い、その都度登録免許税を支払う必要があります。
例えば、3店舗で酒類販売を行う場合、各店舗ごとに30,000円(小売業免許の場合)の登録免許税がかかり、合計で90,000円になります。
また、申請に際してはその他の費用も考慮する必要があります。
申請書類の作成や必要な添付書類の準備には相応の時間と労力がかかります。
他の業務の方が忙しかったり、手続きが煩雑でなかなか思うように進まないなどの場合は、行政書士をはじめとした専門家への依頼も検討しましょう。
申請にかかる費用を事前に把握し、予算を組んでおくことが重要です。
もちろん、登録免許税以外にも、事業開始後の運転資金、店舗の賃貸料、設備投資なども考慮し、総合的な計画を立てることが大切です。
種類に応じたお酒の販売方法
酒類販売業免許には、販売方法や販売対象によって異なる区分があります。
ここでは、主要な免許区分である「酒類小売業免許」と「酒類卸売業免許」について詳しく説明します。
①酒類小売業免許
酒類小売業免許は、一般の消費者や飲食店を対象とする販売免許です。
この免許にはいくつかの種類があります。
一般酒類小売業免許
この免許は、酒類の販売店やコンビニエンスストアでお酒を販売する際に必要です。
実店舗があっても、無店舗での販売(通信販売)でもすべての酒類を小売りすることができます。
ただし、一般酒類小売業免許で通信販売を行う場合、販売対象は1都道府県内に限られます。
この制限があるため、全国規模で通信販売を行いたい場合には、別途「通信販売酒類小売業免許」が必要です。
通信販売酒類小売業免許
インターネットやカタログを利用して酒類を販売する場合に必要な免許です。
この免許を取得することで、2都道府県以上の広範囲にわたって酒類を販売することが可能です。
ただし、店頭での販売や他の酒類販売業者に対する販売はできません。
販売できる酒類には制限があり、国内製造の酒類については、年間販売量が3,000キロリットル未満の製造者が製造したものに限られます。
特殊酒類小売業免許
この免許は、会社役員や従業員に対して社内販売を行う際に必要です。
非常に特殊なケースで使用される免許であり、一般的な酒類販売にはあまり関係ありません。
②酒類卸売業免許
酒類卸売業免許は、他の酒類販売業者や製造者に対して酒類を卸売りするための免許です。
以下に、主要な卸売業免許の種類を紹介します。
免許の種類 | 説明 |
---|---|
全酒類卸売業免許 | 原則としてすべての酒類を卸売りできる免許です。しかし、新規取得は非常に困難とされています。 |
ビール卸売業免許 | ビールを卸売りするための免許です。こちらも新規取得は難しいとされています。 |
洋酒卸売業免許 | 果実酒やウイスキー、ブランデーなどの洋酒を卸売りするための免許です。 |
輸出入酒類卸売業免許 | 自分が直接輸出する酒類や、直接輸入した酒類を卸売りするための免許です。国内の業者から仕入れた外国産酒類を販売することはできません。 |
店頭販売酒類卸売業免許 | 自社の会員である酒類販売業者に対して、店頭で引き渡し、持ち帰り方式で酒類を卸売りするための免許です。 |
協同組合間酒類卸売業免許 | 事業協同組合の組合員に対して酒類を卸売りするための免許です。 |
自己商標酒類卸売業免許 | 自分が開発した商標や銘柄の酒類を卸売りするための免許です。 |
特殊酒類卸売業免許 | 特定の酒類事業者の特別な必要に応じて酒類を卸売りするための免許です。 |
まとめ:事業に合わせた免許取得を
酒類販売業免許は、個人でも法人でも取得することが可能です。
免許の内容や費用に違いはなく、どちらで申請しても同じです。
しかし、酒類販売事業は、酒類販売業免許を取得している人格(名義)で行わなければなりません。
例えば、酒類販売業免許を個人で取得した人が、経営する法人で仕入れたお酒を販売することはできません。
法人が仕入れ・販売を行う場合は法人として免許を取得し、法人で仕入れを行い、個人が販売する場合には、それぞれ別の人格で行う事業となるため、法人・個人それぞれが免許を取得する必要があります。
お酒の販売業を法人の事業として行うのであれば法人で、個人事業として行うのであれば個人で取得します。
免許の取りやすさではなく、「だれがお酒の販売業を行うのか」によって判断しましょう。
一般的な個人・法人のメリットとデメリット
個人事業主と法人で、酒類販売業免許の取得難易度に大きな違いはありませんが、一般的には以下のようなメリットとデメリットが考えられます。
個人事業主のメリット
①開業手続きが簡単
②ランニングコストが安く抑えられる
③決算や税務申告が比較的簡単
個人事業主は手軽に始められる点が魅力です。
開業手続きもシンプルで、初期費用や運営コストを抑えることができます。
また、決算や税務申告が法人に比べて簡単なため、会計業務の負担も軽減されます。
個人事業主のデメリット
①社会的信用が法人に比べて劣る
②責任が全て自分にかかる
③資金調達の難易度が高い
個人事業主は社会的信用が法人に比べて低いことがデメリットです。
取引先や顧客からの信頼が得にくい場合があり、事業拡大時の資金調達も難しくなります。
また、事業における責任は全て個人にかかるため、リスク管理が重要です。
法人のメリット
①社会的信用が大きい
②資金調達がしやすい
③責任が法人に帰属するため、個人のリスクが軽減される
法人は社会的信用が高く、取引先や顧客からの信頼が得やすいです。
また、資金調達も銀行や投資家から容易に行うことができます。
法人としての責任が個人に及ばないため、リスク管理の面でも安心です。
法人のデメリット
①設立費用がかかる
②ランニングコストがかかる
③決算や税務申告が複雑
法人を設立するには、登記費用や設立時の手続き費用がかかります。
また、運営にあたっても税理士や会計士のサポートが必要になるため、ランニングコストが増加します。
決算や税務申告も複雑で、専門的な知識が求められます。
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酒類の販売は免許制度となっており、酒類販売事業を行うためには酒類販売業免許の取得が必要です。
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