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賃金のデジタル払いとは?メリット・デメリット、仕組みについて厚生労働省などの情報をもとに解説

更新日:2024年12月18日


賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)とは、従業員の賃金(給与)を電子マネーで支払う制度のことで、2023年4月から解禁されています。


本記事では、賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)とはどんな制度か、そのメリット・デメリット、導入方法などについて解説します。

給料

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)は、従来の銀行振込や現金支給に代わり、資金移動業者が提供するキャッシュレス決済サービスを介して賃金(給与)を支払う新しい方法です。
電子マネーは、スマートフォンアプリやプリペイドカードを利用して給与を受け取る形態で、厚生労働省が定めた条件に基づいて運用されます。

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)は、金融機関の手続きが不要なため、手数料や振込コストを削減できたり、給与の受け取りが柔軟で迅速に行えたりできる可能性があるのが特徴です。
しかし、その一方で、安全性や従業員の権利を保護するための規制やルールが整備されており、従業員の同意や指定された資金移動業者の利用が必要です。

いつから利用できる?賃金のデジタル払いに関する背景

それでは、この制度はいつから利用ができるのでしょうか。
2020年頃から、労働基準法が改正され、電子マネーを用いた賃金支払いが検討され始めました。
キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化に伴い、資金移動業者の口座を給与の受け取りに活用するニーズが高まっています。
こうした状況を受けて、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への賃金支払い、いわゆる「賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)」が2023年4月より解禁となりました。
経済産業省の発表によると、2023年には国内のキャッシュレス決済比率が39.3%に達しているようです。「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」より)

しかし、2023年4月時点では資金移動業者が指定申請をできるようになっただけであり、実際の導入・利用するためには、指定申請の審査が完了した上でサービス提供開始されるまで待たなければなりません。

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)へ対応予定の資金移動業者

2024年8月9日、PayPay株式会社が国内で初めて給与デジタル払いの指定を厚生労働大臣から受けました。
給与デジタル払いの制度自体は2023年4月に解禁されましたが、厚生労働省による指定審査は厳格な利用者保護の観点から長期化していたようです。
特に、資金移動業者が経営破綻した際の利用者保護策や、給与の引き出し手数料の無料化などが重要な審査ポイントと思われます。

PayPay株式会社は、ソフトバンクグループ会社10社で希望する従業員を対象に9月分の給与から「PayPay給与受取」サービスを開始すると発表しています。
2024年内にはすべてのPayPayユーザー(6400万人以上)に同サービスを提供開始できるよう準備を進めているとのことです。

そのほか、第二種資金移動業者である「楽天Edy株式会社」、「株式会社リクルートMUFGビジネス」、「auペイメント株式会社」の3社が指定申請の審査中であると思われます。

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)の導入による、企業と従業員双方のメリット・デメリットについて解説します。

企業が導入するメリット

コスト削減

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を利用することで、銀行振込に比べて手数料が安くなる可能性があります。
従業員が多い場合や、使用する銀行口座が企業と異なる場合でも、振込手数料を抑えることができ、コスト削減が期待されます。

企業イメージの向上

新しい制度を導入することで、企業が柔軟かつ革新的な姿勢を示すことができます。
これにより、企業としての信頼性が高まり、イメージアップにつながります。

多様な人材の採用・確保

キャッシュレス決済サービスが普及する中、賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)に対する従業員の関心が高まっています。
この支払い方法を導入することで、特にデジタルサービスを好む人材の確保や、雇用機会の拡大が期待されます。

企業が導入するデメリット

業務量の増加

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)の導入により、従業員ごとの支払い方法が異なる場合、給与処理の手間が増えます。
一部の従業員が従来の銀行振込を希望し、他の従業員がデジタル払いを選択した場合、それぞれに対応した業務が必要です。
また、給与の一部をデジタル払いとする場合、1人分の給与に対して複数回の振込手続きが発生するため、さらに業務負担が増加します。

管理コストの上昇

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を導入することで、新たな従業員情報や口座データの管理が必要となります。
これにより、管理体制の見直しや新しいシステムの導入が求められ、管理コストが増加する可能性があります。
各従業員の支払い方法やデジタル払いの割合に応じた情報を適切に管理するための体制を整える必要があります。

システム連携費用の発生

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)に対応するためには、給与システムと指定資金移動業者との連携が必要です。
既存の給与システムによっては、改修や追加のシステム構築が必要となり、それに伴う費用が発生します。
特に、給与の一部のみをデジタル払いとする場合、システムの対応が求められるため、連携費用がさらに増える可能性があります。

従業員が利用するメリット

キャッシュレス決済の利便性向上

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を利用することで、給与が直接資金移動業者の口座に支払われます。
これにより、銀行口座からキャッシュレス決済アカウントへの資金移動やチャージの手間が省け、キャッシュレス決済を日常的に利用している従業員にとって利便性が向上します。

給与の一部を選択して受け取れる

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を利用する際には、給与の一部のみをデジタル払いで受け取ることができます。
たとえば、毎月の給与のうち一部をデジタル払いで受け取り、残りは銀行口座に振り込むなど、従業員自身で受け取り方法を柔軟に設定することが可能です。

現金チャージの手間が不要

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)によって、キャッシュレス決済口座に直接給与が送金されるため、毎回の現金チャージの手間がなくなります。
さらに、毎月1回の出金が手数料なしでできるため、現金化も容易です。

給与残高の補償

指定資金移動業者が破綻した場合でも、給与残高は保証機関によって弁済される仕組みがあります。
これにより、従業員は安心して賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を利用することができます。

お金の管理がしやすくなる

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を活用することで、生活費や貯蓄を用途に応じて分けて管理しやすくなります。
たとえば、生活費を電子マネーで受け取り、貯蓄を銀行口座に振り込むなど、自分に合った方法で給与を管理できます。

従業員が利用するデメリット

希望する資金移動業者が使えない場合がある

デジタル給与を受け取る際、使用できる資金移動業者は厚生労働省が指定したものに限られます。
従業員が普段使用しているキャッシュレス決済サービスが利用できない場合、新たに会社指定の口座を開設する必要があります。
2024年10月現在では、PayPay株式会社しか指定資金移動業者が存在しないため、その他のキャッシュレス決済サービスは利用することができません。

口座入金額に上限がある

資金移動業者の口座には、100万円の入金上限が設定されています。
給与やボーナスがこの上限を超える場合、超過分は事前に登録した銀行口座に自動的に送金されますが、その際には送金手数料が発生する可能性があります。

また、2024年8月9日に指定を受けたPayPay株式会社は、口座入金額の上限を20万円に設定しています。
この背景には、以下の規制が関係しており、経営破綻した際の保証額を調達可能な範囲に収めるためであると思われます。

②必要となり得る保証額(原則として 100 万円に指定資金移動業者口座として設定した最大口座数を乗じた額を想定)が調達可能額(金融機関からの融資及び保証機関における手元資金等)の範囲内であること等が必要である。また、指定資金移動業者口座の全てを保証対象とすべきことから、指定申請の際には、原則として上記の最大口座数(賃金支払が認められる口座数の上限)を条件として設定することとなる。(「資金移動業者の口座への賃金支払に関する資金移動業者向けガイドライン」より)

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)の導入は、企業の任意ですが、従業員の要望によって導入を検討する必要が出てくる場合もあります。
導入にあたっては、いくつかの注意点を押さえておくことが重要です。

①労使協定を締結

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を導入する際には、企業と従業員の間で労使協定を締結する必要があります。
この協定は、労働組合または従業員の過半数を代表する者と結ばれ、賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)の導入に関する具体的な内容について合意することを目的としています。

労使協定では、賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)の対象となる従業員の範囲や、対象となる賃金の金額についても取り決めます。
また、取扱い資金移動業者の選定や給与支払い開始時期などの詳細も協定に盛り込まれることが一般的です。

②同意書の提出

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を希望する従業員は、事前に同意書を提出する必要があります。
この同意書は、労使協定締結後に希望者のみが提出するものであり、全従業員に対して必須ではありません。
同意書には、主に以下のような項目を記載します。

  • 賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)で受け取りたい給与の額
  • 資金移動業者の口座番号
  • 支払い開始希望日
  • 代替口座情報(上限超過分の振込先として提出が必要)

同意書のフォーマットは現在定まっていませんが、厚生労働省のホームページに参考となるフォーマット例が掲載されているため、多くはそちらを参考に作成していくことになると思われます。(「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書(参考例)」より)

③就業規則への反映

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を導入する場合、就業規則への反映が必要です。
給与の支払方法は「絶対的記載事項」とされており、就業規則に明記しなければなりません。
資金移動業者を利用した支払いに関するルールや、銀行口座との併用に関する事項などを追記します。
同意書で求める内容も規定に反映することが求められます。

また、就業規則の変更後は、労働基準監督署への届出が必要です。
労働組合または従業員の過半数を代表する者の意見を聴取し、意見書を添付して提出する必要があります。
届出を怠ると、30万円以下の罰金が課される可能性があるため、注意が必要です。

賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)は2023年4月に解禁され、今後さらに普及が進むと予想されます。
すでにPayPay株式会社が指定を受けたことにより、他の資金移動業者も同様の指定を受ける可能性があり、キャッシュレス決済の利便性が一層広がることが期待されます。

企業が賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)を導入する際には、従業員の意向を確認するアンケートやヒアリングの実施や、導入後の管理体制を整備することで、スムーズな導入と業務負担の軽減が可能になると思われます。
制度の運用状況や利用者の反応についても、引き続き注視する必要があり、状況に応じた柔軟な対応が求められます。

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清水さん
行政書士 主任コンサルタント
公認AMLスペシャリスト
清水 侑

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