前払式支払手段発行者届出・登録

高額電子移転可能型前払式支払手段とは(改正資金決済法)

更新日:2024年12月18日


2023年6月施行の改正資金決済に関する法律(通称:資金決済法)によって、「高額電子移転可能型前払式支払手段」が定義づけられました。


高額電子移転可能型前払式支払手段は、第三者型前払式支払手段の一種であり、その未使用残高が高額であることを特徴とします。

この支払手段は、電子情報処理組織を利用して移転が可能であり、一般的には高額な取引に利用されます。


高額電子移転可能型の前払式支払手段を発行する場合には、業務実施計画の事前届出や、取引時確認等の措置を行うことが求められることになります。



資金決済法では、以下のように定義されています。

第3条(定義)第8項


 この章において「高額電子移転可能型前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。


 第三者型前払式支払手段のうち、その未使用残高(第一項第一号の前払式支払手段にあっては代価の弁済に充てることができる金額をいい、同項第二号の前払式支払手段にあっては給付又は提供を請求することができる物品等又は役務の数量を内閣府令で定めるところにより金銭に換算した金額をいう。以下この号及び次項並びに第十一条の二第一項第一号において同じ。)が前払式支払手段記録口座に記録されるものであって、電子情報処理組織を用いて移転をすることができるもの(移転が可能な一件当たりの未使用残高の額又は移転が可能な一定の期間内の未使用残高の総額が高額であることその他の前払式支払手段の利用者の保護に欠け、又は前払式支払手段の発行の業務の健全かつ適切な運営に支障を及ぼすおそれがあるものとして内閣府令で定める要件を満たすものに限る。)

 前号に掲げるものに準ずるものとして内閣府令で定めるもの

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=421AC0000000059


また、前払式支払手段に関する内閣府令では、以下とされています。

(高額電子移転可能型前払式支払手段)


第五条の二 法第三条第八項第一号に規定する内閣府令で定める要件は、次に掲げる要件のいずれかに該当することとする。


 残高譲渡型前払式支払手段(電磁的方法によりその未使用残高の記録の加算が行われるものに限る。)である場合において、次に掲げる要件のいずれかに該当すること。

 移転が可能な一件当たりの未使用残高の額が十万円を超えるものであること。

 移転が可能な一月間の未使用残高の総額が三十万円を超えるものであること。


 番号通知型前払式支払手段(電磁的方法によりその未使用残高の記録の加算が行われるものに限る。)である場合(残高譲渡型前払式支払手段のうちその発行を受けた者に関する情報を発行者が管理することとなるものである場合を除く。)において、次に掲げる要件のいずれかに該当すること。

 前払式支払手段記録口座に記録が可能な一件当たりの未使用残高(当該番号通知型前払式支払手段に係る番号等の通知を受けた発行者が当該通知をした者をその保有者として前払式支払手段記録口座に記録するものに限る。ロにおいて同じ。)の額が十万円を超えるものであること。

 前払式支払手段記録口座に記録が可能な一月間の未使用残高の総額が三十万円を超えるものであること。


 法第三条第八項第二号に規定する内閣府令で定めるものは、第三者型前払式支払手段(電磁的方法によりその未使用残高の記録の加算が行われるものに限る。)のうち、その未使用残高が前払式支払手段記録口座に記録されるものであって、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。


 その記録が可能な一月間の未使用残高の総額が三十万円を超えるものであること。


 登録商標(商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第二条第五項に規定する登録商標をいい、利用状況その他の事情を勘案して金融庁長官が定めるものに限る。)の使用(同条第三項に規定する使用をいう。)をする権利を有する発行者により当該登録商標が付されているものであること。


 前号の登録商標に係る標識の掲示その他の表示をしている加盟店(法第十条第一項第四号に規定する加盟店をいう。第十六条第十一号及び第四十一条第三項において同じ。)において前号の権利に関して代価の弁済に充てること又は物品等の給付若しくは役務の提供を請求することが可能な一月間の未使用残高の総額が三十万円を超えるものであること。


 当該第三者型前払式支払手段に係る証票等がなくても、代価の弁済のために使用すること又は物品等の給付若しくは役務の提供を請求することが可能であること。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=422M60000002003


本記事では、上記法令や高額電子移転可能型前払式支払手段にかかる規制内容について詳しくご説明します。

(1) 残高譲渡型前払式支払手段の場合

残高譲渡型前払式支払手段は、前払式支払手段の一種であり、利用者が指図することで発行者が電子情報処理組織を用いて一般前払式支払手段記録口座における未使用残高の減少や増加の記録をする方法、またはその他の方法により、発行者が管理する仕組みに係る電子情報処理組織を用いて移転が可能な支払手段です。

(例:アカウント残高が譲渡可能なもの)


残高譲渡型前払式支払手段では、次のいずれかに該当する場合、高額電子移転可能型前払式支払手段とされます。


①移転が可能な一件当たりの未使用残高が10万円を超えること。(一回あたりの譲渡額が10万円超)
②移転が可能な一月間の未使用残高の総額が30万円を超えること。(一月あたりの譲渡額の累計が30万円超)

(2) 番号通知型前払式支払手段の場合

番号通知型前払式支払手段は、前払式支払手段の一種であり、電子情報処理組織を用いて第三者に通知することができる番号等を指します。

具体的には、利用者が発行者に対して特定の番号や識別子を通知することで、その通知を受けた発行者がその番号を通知した者をその保有者として、その未使用残高を一般前払式支払手段記録口座に記録する支払手段です。(例:Google Playギフトカード、Apple Gift Cardなど)


番号通知型前払式支払手段では、次のいずれかに該当する場合、高額電子移転可能型前払式支払手段とされます。


①前払式支払手段記録口座に記録が可能な一件当たりの未使用残高が10万円を超えること。(一回あたりのチャージ額が10万円超)
②前払式支払手段記録口座に記録が可能な一月間の未使用残高の総額が30万円を超えること。(一月あたりのチャージ額の累計が30万円超)

(3) 内閣府令で定めるものの場合

資金決済法第3条(定義)第8項第2号における内閣府令で定めるものとは、未使用残高が前払式支払手段記録口座に記録されるものに限り、以下の条件をすべて満たすものをいいます。


①記録が可能な一月間の未使用残高の総額が30万円を超えること。(一月あたりのチャージ額の累計が30万円超)
②登録商標の使用権を持つ発行者が当該商標を付していること。
③登録商標に関する標識を掲示している加盟店において、代価の弁済や物品等の提供を請求することが可能な一月間の未使用残高の総額が30万円を超えること。(一月あたりの利用額の累計が30万円超)
④証票等がなくても代価の弁済や物品等の提供を請求することが可能であること。


これは、国際ブランドを用いたプリペイドカードが該当するとされています。

※前払式支払手段記録口座とは

前払式支払手段記録口座とは、前払式支払手段発行者が自ら発行した前払式支払手段ごとにその内容の記録を行う口座(当該口座に記録される未使用残高の上限額が高額として内閣府令で定める額を超えるものであることその他内閣府令で定める要件を満たすものに限る。)をいいます。(資金決済法第3条(定義)第9項)


つまり、前払式支払手段発行者が利用者ごとに与える、いわゆるアカウントのことです。

ただし、そのアカウントに記録される未使用残高の上限額が30万円を超えるものに限定されます。

業務実施計画の事前届出義務

高額電子移転可能型前払式支払手段を発行する場合、業務実施計画を提出する義務があります(資金決済法第11条の2(業務実施計画の届出)第1項)。

この業務実施計画は、未使用残高の上限額やシステム管理方法などの重要事項を定めるものです。

また、業務実施計画を変更する場合にも変更届出が必要とされています(同条第2項)。


業務実施計画には、以下の内容を記載しなければなりません。

  • 未使用残高の上限額の定め
  • 電子情報処理組織の管理方法
  • その他、利用者保護や業務の健全な運営に必要な事項


「利用者保護や業務の健全な運営に必要な事項」とは、具体的には以下の内容を指します。

  • 犯罪による収益の移転防止やテロリズムに対する資金供与の防止に関する体制
  • 前払式支払手段の利用者の保護を図り、業務の健全かつ適切な運営を確保するための措置
    • 残高譲渡型前払式支払手段を発行する場合には、移転可能な未使用残高の上限額の設定や移転の監視体制の整備など、不適切な利用を防止するための措置
    • 番号通知型前払式支払手段や第三者型前払式支払手段のうち、一般前払式支払手段記録口座に記録されるものを発行する場合には、未使用残高の上限額の設定や不適切な移転を防止するための体制の整備など、不適切な利用を防止するための措置
  • 利用者の意思に反して権限を持たない者からの指図による利用者の損失に関する方針
  • 高額電子移転可能型前払式支払手段を利用者以外の者が不正利用した場合の対応方針
  • その他、利用者の保護や業務の健全かつ適切な運営を確保するための重要事項

取引時確認等の措置

高額電子移転可能型前払式支払手段を発行する場合、犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称:「犯収法」
)に基づく取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を行う必要があります。(犯収法第2条(定義)第2項第30号の2)


取引時確認等の措置に関する内部管理態勢を構築する際には、リスクベース・アプローチを含む「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づくことが重要です。


具体的には、特定事業者作成書面に基づく顧客リスク評価や取引時確認の方法、法人顧客との取引における実質的支配者の確認など、厳格な顧客管理を行う必要があります。また、疑わしい取引の届出においても、高額電子移転可能型前払式支払手段発行者は、取引時の状況や顧客の属性などを総合的に考慮して、適切な判断を行わなければなりません。


また、海外営業拠点のテロ資金供与やマネーロンダリング対策も重要であり、国内と同水準の対策が求められます。特に、国内よりも高い基準が求められる場合は、現地の法令に準拠した対応が必要です。


取引時確認については、アカウント開設の契約時に行うこととされています。(犯収法第7条(金融機関等の特定取引)第1項第1号ヨ)

未使用残高の上限額

高額電子移転可能型前払式支払手段の発行者は、テロ資金供与やマネーロンダリングといったリスクに対処するため、未使用残高の上限額に特に注意を払わなければなりません。


これは、移転、記録、および使用が可能な未使用残高が高額な支払手段に関して、これらのリスクが相対的に高まるためです。


主な着眼点として、高額電子移転可能型前払式支払手段発行者は、上記取引時確認等の措置と同様に、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」における事項を適切に実施する必要があります。

さらに、未使用残高の上限額に応じたリスク評価を実施し、適切なリスク管理態勢を整備することが求められます。


最近では、アンチマネーロンダリングに関する専門的な資格の所有者の設置なども求められることもあります。

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清水さん
行政書士 主任コンサルタント
公認AMLスペシャリスト
清水 侑