非上場有価証券特例仲介等業務
投稿日:2025年4月17日
令和7年5月1日施行の金融商品取引法改正で、「非上場有価証券特例仲介等業務」が新設されます。
特定投資家を対象に、スタートアップ等が発行する非上場有価証券の流通促進を目的に創設された制度で、同様の狙いで「非上場有価証券の私設取引システム(PTS)の参入要件緩和」の法改正も行われる予定です。
現在、法改正内容が決まり、パブリックコメントが公開され、日本証券業協会等の自主規制規則も改定が決まり、いよいよ対応すべき事項が見えてきた所です。
今回は「非上場有価証券特例仲介等業務」について、具体的にどのような制度なのか等を解説します。
非上場有価証券特例仲介等業務(非上場仲介業)
「非上場有価証券特例仲介等業務」とは、プロの投資家(特定投資家)を対象に、非上場有価証券の仲介業務に特化し、原則有価証券や金銭の預託を受けない場合、第一種金融商品取引業の登録要件が緩和される制度です。
具体的に、改正金商法上、以下の通り規定されます。
(改正金商法第29条の4の4第8項)
「非上場有価証券特例仲介等業務」とは、第一種金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 有価証券(金融商品取引所に上場されていないものに限り、政令で定めるものを除く)に係る次に掲げる行為
イ 売付けの媒介又は第二条第八項第九号に掲げる行為(一般投資家(特定投資家等、当該有価証券の発行者その他内閣府令で定める者以外の者をいう。以下この号において同じ)を相手方として行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために行うものを除く)
ロ 買付けの媒介(一般投資家のために行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として行うものを除く)
二 前号に掲げる行為に関して顧客から金銭の預託を受けること(同号に掲げる行為による取引の決済のために必要なものであつて、当該預託の期間が政令で定める期間を超えないものに限る)
[対象となる”有価証券”]
非上場有価証券特例仲介等業務の対象となる有価証券は、「①金融商品取引所に上場されていないもの」で「②店頭売買有価証券以外」の有価証券です。
「金融商品取引所」とは、金商法第80条第1項に基づき内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する金融商品会員制法人又は株式会社と定義されていますが、この「金融商品取引所」に上場していない有価証券(店頭売買有価証券以外)は、対象になります。
つまり、「スタートアップ企業の非上場株式」はもちろん、「金融商品取引所に上場していない公募の有価証券」や「海外でのみ上場している有価証券」等も対象になるということです。
(参考:パブリックコメント No37)
[対象となる行為]
非上場有価証券特例仲介等業務として認められる行為は、非上場有価証券に関する以下の行為です。
①売付けの媒介
②法第二条第八項第九号に掲げる行為
(=募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い)
③買付けの媒介
※上記①②からは「一般投資家(特定投資家等、当該有価証券の発行者その他内閣府令で定める者以外の者をいう)を相手方として行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために行うもの」が、上記③からは「一般投資家のために行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として行うもの」が、除かれます。
更に、上記行為に関して「顧客から金銭の預託を受ける行為」も認められています。
ただし、金銭の預託行為については、「上記行為による取引の決済のために必要なもの」であって、「顧客から金銭の預託を受けた日の翌日から1週間を超えない範囲」に限られています。
[対象となる投資家]
非上場有価証券特例仲介等業務は、プロの投資家である「特定投資家」を想定して作られた制度ですが、厳密には、「特定投資家等、当該有価証券の発行者その他内閣府令で定める者」が対象になります。
改正金商法によると、以下が対象になります。(金商法第2条第3項第2号ロ(2))
①特定投資家
②非居住者
(外国為替及び外国貿易法第6条第1項第6号に規定する非居住者をいい、政令で定める者に限る)
③当該有価証券の発行者
④その他内閣府令で定める者(改正内閣府令第16条の3より、以下抜粋)
一 当該有価証券の発行者の取締役、監査役、執行役、理事若しくは監事若しくはこれらに準ずる者若しくは使用人(以下「特定役員等」)又は当該特定役員等の被支配法人等
二 当該有価証券の発行者の総株主等の議決権の百分の五十を超える議決権(以下「対象議決権」)を自己又は他人の名義をもって保有する会社
※特定役員等とその被支配法人等が合わせて他の法人等の総株主等の議決権の100分の50を超える対象議決権を自己又は他人の名義をもって保有する場合には、当該他の法人等は、当該特定役員等の被支配法人等とみなされる。
※「被支配法人等」とは、特定役員等が他の法人等の総株主等の議決権の100分の50を超える対象議決権を自己又は他人の名義をもって保有する場合における当該他の法人等をいう。
要件緩和の概要
通常の第一種金融商品取引業と比較して、緩和される主な要件を整理すると、以下の通りです。
通常の第一種金商業の場合 | 非上場有価証券 特例仲介等業務の場合 | |
資本金 | 原則 5,000万円 | 1,000万円 |
純財産額 | 原則 5,000万円 | 1,000万円 |
自己資本規制比率 | 適用あり(120%) | 適用なし |
金融商品取引責任準備金 | 積立義務あり | 積立義務なし |
日本投資者保護基金 | 加入義務あり | 加入義務なし |
日本証券業協会 | 会員 | 特定業務会員 |
兼業規制 | 適用あり | 緩和 |
上記の他にも、監督指針「体制審査の項目」では、以下の緩和が盛り込まれます。
(監督指針「Ⅳ-4-1 登録」>(2)体制審査の項目)
[通常の第一種金融商品取引業の場合]
常勤役職員の中に、その行おうとする第一種金融商品取引業の業務を3年以上経験した者が複数確保されていること
[非上場有価証券特例仲介等業務の場合]
非上場有価証券特例仲介等業者が非上場有価証券特例仲介等業務のうち金商法第 29 条の4の4第8項第1号に掲げる行為(特定投資家を相手方として行うものに限り、金商法第2条第8項第 10 号に掲げるものを除く。)に係る業務のみを行う場合には、常勤役職員の中に、その行おうとする第一種金融商品取引業の業務(金商法第29 条の5第2項に規定する業務を含む。)を1年以上経験した者が1名以上確保されていることとする。
主な対応事項
非上場有価証券特例仲介等業務に該当することで、登録要件が一部緩和されますが、一方で、「非上場有価証券特例仲介等業務」として登録を受けるには、当該業務範囲を超えて第一種金融商品取引業を行うことがないよう、各種措置を講じる必要があります(改正内閣府令・監督指針等)。
例えば、「取引の当事者の属性の事前確認や金銭の預託の期間の管理体制の整備」の他、以下の措置が必要です。
(改正内閣府令第70条の2第1項・第10項より)
非上場有価証券特例仲介等業者が整備しなければならない業務管理体制は・・・
①法第三十五条の三の規定により金融商品取引業者等が整備しなければならない業務管理体制は、金融商品取引業等を適確に遂行するための社内規則等(社内規則その他これに準ずるものをいう。)を整備し、当該社内規則等を遵守するための従業員に対する研修その他の措置がとられていること
②一般投資家を相手方として及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために売付けの媒介又は法第二条第八項第九号に掲げる行為を行うことを防止するための必要かつ適切な措置がとられていること
③一般投資家のために及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として買付けの媒介を行うことを防止するための必要かつ適切な措置がとられていること
④顧客から金銭の預託を受ける場合には、法第二十九条の四の四第八項第二号の金銭の預託として適切に管理するための措置がとられていること
(監督指針「Ⅳ-3-6 非上場有価証券特例仲介等業務の適切性」より)
① 一般投資家を相手方として及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために売付けの媒介又は金商法第2条第8項第9号に掲げる行為を行うことを防止するための必要かつ適切な措置
② 一般投資家のために及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として買付けの媒介を行うことを防止するための必要かつ適切な措置
③ 顧客から金銭の預託を受ける場合には、金商法第 29 条の4の4第8項第2号の金銭の預託として適切に管理するための措置
※なお、非上場有価証券特例仲介等業者が第二種金融商品取引業を行う場合には、第二種金融商品取引業に係る一般投資家である顧客に対して非上場有価証券特例仲介等業務の範囲を超えた第一種金融商品取引業を行うことがないように留意すること。
特に非上場有価証券特例仲介等業務に係る担当者が第二種金融商品取引業に係る担当者を兼務する場合には、第二種金融商品取引業に係る顧客に一般投資家が含まれているかどうか、含まれている場合には第二種金融商品取引業に係る一般投資家である顧客に対して非上場有価証券特例仲介等業務の範囲を超えた第一種金融商品取引業が行われないよう、非上場有価証券特例仲介等業務を行う前の顧客の属性の事前確認が行われているかどうかを確認すること。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
通常、第一種金商業の登録を目指す場合のハードルや負担になりやすい要素が緩和・適用除外となっている為、今後の幅広い活用が期待される所です。
実際、まだ施行日を迎えていませんが、弊社には「非上場有価証券特例仲介等業務をやりたい/気になっている」といったお問い合わせが既に数件来ています。
サポート行政書士法人では、「非上場有価証券特例仲介等業務」のように法改正されたばかりの新しい制度に関する支援も積極的に行っています。
まだ実際に改正され事例が出てみないと分からない要素は多々ありますが、だからこそ面白い。
ぜひ一緒に先行事例を作っていきましょう!
非上場有価証券特例仲介等業務に興味がある方は、下記よりお問い合わせください。
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(参考)
・令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について(金融庁)
・金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料(金融庁)
・パブリックコメント(金融庁)
・非上場有価証券特例仲介等業務に係る自主規制規則等の一部改正について(日本証券業協会)
(著者:増野)