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「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定

政府は3月7日、暗号資産(仮想通貨)分野の新たな「仲介業」創設や、信託型ステーブルコインの規制緩和、クロスボーダー収納代行サービスへの規制導入などを盛り込んだ資金決済法の改正案を閣議決定し、同日国会に提出しました​。
今回の改正は、金融のデジタル化の進展に対応しつつ利用者保護を確保し、イノベーションを促進することが目的とされています​。
以下、主な改正点とその狙いについて解説します。

まず、ステーブルコイン(価格が安定した暗号資産)のうち信託型ステーブルコインに関する規制が緩和されます。
これまでは発行額と同額の裏付け資産を、預金者がいつでも引き出せる普通預金や当座預金(要求払預貯金)で全額保有する必要がありました​。

改正案ではこの要件が緩和され、発行額の最大50%までを上限に、元本が毀損しない資産であれば一部を国債や定期預金で保有・運用できるようになります​。
具体的には残存期間3か月以内の日本国債・米国債や、中途解約可能な定期預金による運用が認められます​。
政府は、裏付け資産の運用に国債や定期預金を一定程度認めることで、日本におけるステーブルコイン事業の国際競争力を強化する狙いです​。

従来は裏付け資産を全て現金同等物で持つ必要があったため日本国内でのステーブルコイン発行の動きは鈍い状況でしたが、規制緩和によって国内外の情勢を見極めつつ発行が検討されることが期待されています​。
なお、信託型ステーブルコインとは、発行体が裏付け資産を信託銀行など第三者に信託し、その信託スキームを通じてコインの価値を安定させる方式のステーブルコインを指します​。

改正案では、暗号資産の取引に関して「仲介業」と呼ばれる新たな事業区分が創設されます。

現在は、取引所(暗号資産交換業者)と利用者を単にマッチングさせるサービスを行うだけでも、暗号資産交換業者として金融庁への登録が必要で、資本金要件や様々な規制が課されていました​。
改正後は、このような純粋な仲介(ブローカー)業者は新設される「暗号資産等仲介業」として登録すればよくなり、利用者の資産を預からないため財務要件や資金洗浄防止のマネーロンダリング規制の対象にもならなくなります。

これにより事業者に課される負担が軽減され、暗号資産ビジネスへの参入ハードルが大きく下がる見込みです​。
実際、日経新聞によればメルカリやSBI証券、マネックス証券など複数の企業がこの仲介業への参入に関心を示しており、規制緩和によって暗号資産取引サービスの多様化が進む可能性があります​。
新たな仲介業区分の創設は、日本の暗号資産業界におけるビジネスチャンス拡大と利用者の利便性向上を狙った措置といえます。

一方、これまで規制のグレーゾーンになっていたクロスボーダー収納代行(国境を越えた収納代行)サービスには、新たに資金決済法上の規制が適用される見通しです。
例えば、海外のECサイトの決済代行業者が日本国内の顧客から代金を受け取り、それを海外の販売者に送金するようなサービスは、従来その事業スキームによっては資金移動業(送金サービス)に該当せず「収納代行」として扱われるケースもありました​。

改正案では、このような支払人と受取人が異なる国に所在する収納代行について、銀行や資金移動業者が行う国際送金と同様の機能を果たしているものは為替取引規制(送金サービスに関する規制)の対象とし、資金移動業者としての登録を要件とする方針が示されています​。
つまり、海外送金と実質的に変わらない資金の流れを扱うサービスを規制の網にかけ、無許可で海外送金まがいの行為が行われることを防止する狙いがあります。
これはマネーロンダリングや振り込め詐欺など不正送金への悪用防止、海外事業者を介した利用者トラブルの未然防止といった利用者保護の観点から導入される規制です​。

他方で、通常のEC決済や店舗決済といった消費者が代金を支払った時点で取引債務が消滅するサービスは消費者保護に資する仕組みでもあるため、必要以上に既存ビジネスを萎縮させないよう配慮することも求められます​。
今後、政省令やガイドラインで適用除外となる範囲や具体的な基準が定められる見込みであり、リスクに見合った適切な規制となるよう関係者間で十分な調整が図られることが期待されます​。

改正案には、資金移動業者(送金サービス事業者)が万一破綻した場合に利用者資金を迅速に返還できる仕組みを導入する措置も含まれています。
現行の資金決済法では、資金移動業者は預かった利用者資金の全額を法務局への供託、銀行による保証、または信託によって保全する義務があります。
しかし、いずれの方法でも破綻時の利用者への資金還付には最低170日程度を要するのが実情で、事業者破綻時に利用者へ迅速かつ確実に資金を返済できない点が課題と指摘されていました​。

特に近年、資金移動業者の口座に給与を振り込むこと(給与のデジタルマネー払い)が制度化された背景もあり、賃金受取に使われた資金については速やかな返還が求められます​。
こうした課題に対応するため、改正案では資金移動業者の破綻時に利用者に資金を直接返還できる新たな手段を導入することが提案されています​。

具体的には、資金を保全する際に利用している保証契約や信託契約の仕組みを活用し、保証機関(例:健全性基準を満たす銀行等)による直接返金信託の受託者(信託会社等)から利用者への直接払戻しを可能にする制度です​。
これにより、事業者が倒産しても利用者は従来より早期に安全に資金の返済を受けられるようになります。
保証機関や信託会社から直接返金が行われれば、利用者は法的な煩雑な手続きを経ずに速やかに資金を取り戻せるため、利用者保護の大幅な強化につながると期待されています​。

今後は保証機関となる銀行等に十分な財務健全性を求めることや、信託の受益者代理人に弁護士・公認会計士等の専門家を指定することなど、新制度の下で適切に運用が行われるためのルールも整備される見込みです​。

暗号資産分野では、取引業者(交換業者)が破綻した際の利用者資産保護を強化する改正も行われます。
改正案には、暗号資産交換業者が経営破綻した場合に、その保有する顧客資産を海外へ勝手に移転させないよう、日本国内に留め置く命令(資産の国内保有命令)を発出できる規定を盛り込んでいます​。

これは2022年に米国の大手取引所FTXが突如破綻した際、日本では子会社FTX Japanに対して資産の国内保全命令を発動し、ユーザー資産の国外流出を防いだ事例を踏まえた措置です​。
当時このような命令はデリバティブ(金融派生商品)を扱う事業者にしか適用できませんでしたが、改正によって現物取引のみを扱う暗号資産交換業者に対しても発令できるようになります​。

これにより、万が一国内の暗号資産取引所が倒産しても、利用者の資産を海外に持ち出されず国内で管理・返還できる体制を整え、投資家の資産保護を徹底することが狙いです。
暗号資産市場のグローバル化が進む中、日本国内の利用者資産を迅速に保全する法的枠組みを整備することで、利用者はより安心して取引できる環境が整うと期待されます。

今回の資金決済法改正案は、暗号資産やデジタルマネーの分野で国際競争力を高めつつ、利用者保護もしっかりと図るバランスを追求した内容となっています。
ステーブルコイン規制の緩和や新たな仲介業の創設によって新規参入や技術革新を促す一方、クロスボーダー収納代行への規制導入や事業者破綻時の資金返還ルール整備によってリスク対策も強化されています。

政府は今後、関連する政省令の策定や業界ガイドラインの整備を通じて具体的な運用ルールを詰めていく見込みです。
改正法案が成立すれば、日本の決済・暗号資産分野の制度は新たな段階に進むことになり、利用者にとっても利便性と安心感の両立したサービス環境が期待できるでしょう。

主任コンサルタント 行政書士
公認AMLスペシャリスト 
清水 侑

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