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2023年に解禁される給与デジタル払いー資金移動業者アカウントへの振込―

秋葉原支店の清水です。2023年4月から給与デジタル払いが解禁されます。給与デジタル払いとは資金移動業者アカウントに給与を振り込む仕組みです。

そもそも、皆さんの賃金がどのように支払われなければならないかというのは、労働基準法で定められています。労働基準法の第24条では、賃金は通貨払いが原則とされています。ここでいう「通貨」とは現金、つまり日銀が発行する紙幣(銀行券)と政府が発行する貨幣(硬貨)のことです。通貨は国内で強制通用力を持っているので、相手は受取を拒否できません。非常に大雑把に言えば、紙幣と貨幣は政府がその信用を持って(価値の増減はさておき)保証しているということです。

一方、皆さんの銀行口座にある預金は厳密には通貨ではありません。預金は債権です。皆さんが銀行口座に100万円預金しているということは、その銀行に対して100万円の支払いを請求できる権利を持っているということです。預金は債権のため、通貨のように強制通用力はないし、政府の保証もありません。もし皆さんが預金している銀行が倒産すれば、一定金額を除いて預金はなくなってしまいます。「一定金額を除いて」といったのは、日本にはペイオフという制度があって、仮に銀行が倒産しても預金保険機構という組織が1銀行につき預金者1人当たり「元本1,000万円までと破綻日までの利息等」を保護してくれます。こういった形で皆さんの預金を守るリスクヘッジが図られています。逆を言えば、こういうリスクヘッジがないと誰も預金しなくなり経済が滞ってしまうので、政府はリスクヘッジをせざるをえないわけです。

さて、話をもとに戻します。労働基準法には通貨払いの原則がありますが、紙幣や貨幣のみの支払いだと会社も労働者も面倒です。そこで例外的措置として、労働基準法の施行規則(法律や命令の委任に基づき、各大臣が所管する行政事務を定めるルール)を追加し、労働者の同意がある場合に限り、賃金を銀行口座や証券総合口座へ振り込んでも良いことにしています(労働基準法施行規則第7条の2)。

今回の給与デジタル払いとは、例外的措置の施行規則をさらに追加し、資金移動業者の口座への賃金支払を認めるということです。

給与デジタル払いは資金移動業者の口座と書きましたが、全ての資金移動業者が対象になるわけではありません。厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者に限られています。資金移動業者は金融庁(及び金融庁から委託された財務局長等)の管轄なのに、どうして厚生労大臣なのかというと、労働基準法を所管するのは厚生労働省だからです。つまり給与のデジタル払いは、労働法関連を所管する厚生労働省と金融行政を所管する金融庁の両方が絡む問題なわけです。

最後に、厚生労働大臣が資金移動業者の口座への賃金支払を指定する要件を記載します。次の①~⑦の全ての要件を満たす必要があります(これらの要件の他に、使用者は労働者の同意を得る必要があります)。

(指定の要件)

① 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。

② 口座残高上限額を100万円以下に設定又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること。

※口座残高100万円超の場合に資金を滞留させない体制整備が資金決済法に基づき資金移動業者に求められていることや、①の資金保全スキームにおいて速やかに労働者に保証できる額は最大100万円と想定していることを踏まえ、破綻時にも口座残高が全額保証されることを担保するための要件。

③ 労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。

④ 最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年は口座残高が有効であること。

⑤ 現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。

⑥ 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。

⑦ ①~⑥のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。