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資金移動業者は協会に入るべきか―金融ADR対応を軸にした実務解説

1 金融ADR制度の位置づけ

「金融ADR制度」は、金融サービス利用者と事業者の紛争を裁判より迅速・低コスト・中立公正な方法で解決するためにあるスキームです。
指定紛争解決機関があっせんや調停を行い、利用者救済と金融システムへの信頼を高めることを目的としています。

2 資金移動業者に課される義務

資金決済法に基づくガイドラインでは、資金移動業者に対し利用者からの相談・苦情・紛争等)に真摯に対応することが求められています。
指定ADR機関が存在する場合は手続実施基本契約の締結と連絡先の公表する必要があります。
存在しない場合は弁護士会や消費生活センターなど外部機関を組み合わせて代替措置を講じ、継続的に体制を見直さなければなりません。

3 「認定資金決済事業者協会」という選択

ADR義務を手早く満たすルートとして、金融庁が認定する業界団体(認定資金決済事業者協会)に加盟する方法があります。
2025年4月現在、資金移動業をカバーする認定協会は 一般社団法人日本資金決済業協会(JPISA)があります。
一般社団法人日本資金決済業協会は東京三弁護士会と提携し、会員企業の苦情を受付しています。

4 協会に入るメリット

  • ADRコストと運営負担の削減
    協会が窓口や弁護士会との手続きを包括してくれるため、個別契約や社内対応より人的・金銭的コストが小さくなる可能性があります。
  • 自主規制ルールと最新情報の入手
    協会はガイドラインや規程雛形を随時改訂して会員に配信し、制度改正への対応を支援します。
  • 対外的な信用向上
    協会サイトへの会員掲載や協会マーク表示により、利用者・取引銀行からの信頼を得やすくなります。

留意点
費用負担:入会金・年会費が発生します。スタートアップの場合は重荷になることがあります。

5 非加入を選ぶ場合の実務チェックポイント

協会に頼らない場合でも、ガイドラインで列挙する対応を自前で充足しなければなりません。主な留意点は次の項目があります。

  指定ADR機関と個別契約:東京三弁護士会など既存の機関と手続実施基本契約を締結し、連絡先やフローを自社サイトで公表する。

  社内規程の制定及び従業員教育:苦情受付から和解案検討までの標準手順を文書化し、消費生活専門相談員等による研修を定期実施する。

(協会に加入する場合でも苦情対応、補償の仕組みなどの社内規則を制定する必要があります。)

  費用負担方針:利用者の申立てに伴う費用を誰が負担するか明確にし、過大な利用者負担を避ける。

  モニタリングと定期見直し:苦情件数や処理日数を定期的に役員会へ報告し、必要に応じて外部機関の変更・追加を検討する。

まとめ

資金移動業者にとって金融ADRへの対応は法令上の要件です。
最短で確実に義務を果たすには、認定資金決済事業者協会への加入が王道ですが、費用や規制上乗せを考慮し、自社でADR体制を整える選択肢もあります。
どちらを選ぶにせよ、法令が要求するチェックポイントを満たすことが最優先です。
自社の事業規模・リソース・リスクプロファイルを踏まえ、最適なスキームを設計しましょう。

(著者:徐)