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資金移動業を廃止するときの届出・返金義務・注意点まとめ

資金移動業を営む企業が、事業の方向転換や経営合理化の一環として業務を廃止することはあります。
とりわけ、フィンテック事業者や中小規模のライセンス事業者にとっては、送金インフラの収益化に限界を感じ、撤退または事業譲渡という選択肢をとる局面が出てくるでしょう。

しかし、資金移動業は一般の商業登記上の廃業手続とは異なり、「登録制金融ライセンス」の性質を持つため、廃止時には厳格な法律上の義務が発生します。
とくに資金決済法第61条および第62条には、廃止届出義務、公告義務、残務対応、そして債務履行義務が明記されており、これらに違反した場合は金融庁による行政指導や改善命令の対象となり得ます。

廃止届出の期限と手続の正確な理解

資金移動業者は、業務の全部または一部を廃止したときは、遅滞なく当局に届出を行わなければなりません(資金決済法第61条第1項第1号)。
加えて、廃止しようとする場合には、少なくとも30日前までに公告を行い、すべての営業所にその旨を掲示する義務があります(同条第3項)。

さらに、公告後は直ちにその事実を当局に届け出る必要があり、公告から届出までの時間差についても注意が必要です(第4項)。
この一連の流れは廃止処理の透明性を担保するものであり、遅延・形式不備が発覚した場合、行政対応の長期化や利用者からの信用毀損リスクが発生します。

利用者資金の返還義務──信頼の根幹

資金移動業者が事業を廃止する時点で、利用者から預かっていた資金(未送金残高等)がある場合、それを迅速かつ適切に返還しなければなりません。
なお、ここでいう「返還義務」は、民法上の預かり金に関する義務ではなく、資金決済法第62条に明示された「為替取引に関し負担する債務の履行義務」として構成されます。

資金移動業は、預金や貸金のように顧客資金を保管・運用することを前提とする業態ではなく、顧客から受け入れた資金は速やかに為替取引に用いられるべきものとされており、その資金を「預かる」こと自体が制度の趣旨に反します。
よって、顧客から資金を受け入れた時点で債務が発生し、業者は速やかにその資金を送金または返金という形で履行しなければならないのです。

つまり、資金移動業を廃止した場合でも、その業務に関連する送金義務(債務)をすべて完了するまでは、「元資金移動業者」であっても法的には“なお資金移動業者とみなされる”(資金決済法第62条第1項)という点がポイントです。

この履行が不十分である場合、利用者保護義務違反として行政処分の対象となるだけでなく、実務上も信用毀損・苦情対応のコストが大きくなります。

(著者:徐)