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発行保証金保全手段(供託・銀行保証・信託)の比較と選び方

前払式支払手段の発行者が越えなければならないハードルの一つに、「発行保証金」の保全があります。
これは万一発行者が倒産した場合でも、ユーザーが支払った前払い金の一部が返金に充てられるようにするための仕組みです​。
具体的には、未使用残高が1,000万円を超えたときにその半額以上を法務局に供託するなどして保全する義務が発生します。
保全方法には大きく分けて「供託(現金の供託)」「銀行等による保証(発行保証金保全契約)」「信託(発行保証金信託契約)」の3種類があります。
本記事ではそれぞれの方法の特徴を比較し、事業者の状況に応じた選び方のポイントを解説します。

発行保証金と保全義務の概要

発行保証金とは、発行者が一定額の未使用残高を超えた際にユーザー保護のために預け置くお金のことです。
毎年3月末・9月末の基準日における未使用残高が1,000万円を超える場合、超えた発行者は未使用残高の1/2以上の額を発行保証金として供託しなければならないと定められています。
例えば基準日時点で未使用残高が1,500万円なら、その半額の750万円以上を預ける必要があるわけです。
 この供託はユーザー保護策として非常に重要です。
というのも、発行者が万一経営破綻してしまうと、発行済みのプリペイドは利用不能になり、ユーザーは前払いしたお金を損失する恐れがあります。
そこで、あらかじめ未使用残高の一部を預けさせておくことで、万一の際にはその供託金からユーザーへの払戻しを行える仕組みになっているのです。
この制度によって利用者は安心してプリペイドを購入・利用できるというメリットがあります。

発行保証金の供託が必要になった場合、発行者は基準日の翌日から起算して2か月以内に必要額を供託しなければなりません。
例えば9月30日に残高1,500万円なら11月30日までに750万円を供託、といった期限です。
この期限までに適切な保全措置を講じないと法令違反となり、行政処分の対象ともなります。したがって、残高が増えてきた企業は早めに保全方法を決め、準備を進めておく必要があります。

保全方法

1: 現金の供託(法務局への供託)

もっとも伝統的な方法が、現金もしくは有価証券を法務局に供託する形です。
具体的には、未使用残高の半額以上の金銭等(多くの場合は現金)を法務局の供託所に預け入れます。
この方法のメリットはシンプルで確実な点です。
一度供託してしまえば法律上の要件は満たされますし、供託手続き自体もそれほど複雑ではありません。
また、自社の信用力に関係なく現金さえ用意できれば実行可能な点も長所です。
小規模事業者でも現金を積めば義務を果たせます。

しかしデメリットとして、多額の資金が拘束される点が挙げられます。
供託したお金は事実上ロックされて事業には使えません。
資金効率の面では大きな負担となります。
特に成長期のスタートアップなどでは運転資金を圧迫しかねません。
また、供託には手続き上多少の事務負担も伴います(供託所への書類提出や供託金の準備など)。

まとめ: 資金に余裕があり、確実性を優先するなら現金供託が有力です。
社内に眠っている資金を有効活用してユーザー保護に充てるイメージで、追加コストがかからない反面、資金流動性は失われます。

2: 銀行・保証会社による保証(発行保証金保全契約)

二つ目の方法は、銀行や保険会社、保証会社といった金融機関と「発行保証金保全契約」を締結する形です​。
これは一種の保証契約で、発行者が万一破綻した場合に金融機関が代わりに所定金額を供託してくれることを約束するものです。
発行者は金融機関に毎年一定の保証料(手数料)を支払う必要があります。

この方法の最大のメリットは、手元資金の流出を最小限に抑えられる点です。
保証料は必要ですが、少なくとも半額もの大金を自社でプールしておく必要はなく、事業運転資金を確保しやすくなります。
特にキャッシュフローに余裕がない場合や、成長のため資金を投下したい企業にとって魅力的でしょう。
また、供託所とのやり取りも金融機関が代行する形になるため、手続きがスムーズになる面もあります。
(実際には財務局が破綻時にその金融機関へ供託命令を出し、金融機関が供託を実行します)。

一方でデメリットは、継続的なコストが発生することです。
長期的に見るとかなりの額になる可能性があります。
また、この契約を結ぶには発行者の財務状況や信用力について金融機関の審査があります。
業績が不安定だと希望しても保証を引き受けてもらえない場合もあります。
つまり、誰でも使える方法ではなく、一定の信用が前提となります。

まとめ: 資金繰りを優先したい企業に向く方法です。
毎年のコストを許容でき、かつ自社の信用力に自信があるなら、銀行保証によって事業成長に資金を回せるメリットは大きいでしょう。

3: 信託銀行による信託(発行保証金信託契約)

三つ目の方法は、信託銀行または信託会社と「発行保証金信託契約」を締結する形です。
これは発行者がある程度まとまった金額を信託銀行に信託財産として預け入れ、その財産を信託という枠組みで保全するものです​。
資金決済法第16条に定められた方法で、基本的には現金供託と趣旨は同じですが、それを信託形式で行う点が異なります。

信託方式のメリットは、信託財産を運用できる可能性があることです。
預け入れた資金を信託銀行が安全な資産(国債や社債など)で運用し、現金供託よりも高い利回りを得られる可能性があります。
つまり、現金をただ寝かせておくより多少なりとも運用益を期待でき、発行者にとっては負担軽減につながり得ます。
また、信託契約の場合、状況に応じて追加信託や一部解約といった調整がしやすいとされています。
未使用残高の増減に応じて柔軟に信託額を調整できる点は、供託や保証契約にない利点です。

デメリットとしては、まとまった資金を預ける必要がある点で現金供託と同様に資金拘束が発生することです。
信託したお金は基本的に自由に引き出せませんから、資金流動性は低下します。
また、信託には信託報酬等の費用がかかります。
運用益で多少ペイできる可能性はありますが、確実ではありません。
さらに、信託契約にも金融機関側の引き受け基準があり、契約時に審査や手続きが必要です。
手間の面では保証契約と同程度かそれ以上と言えるでしょう。

まとめ: ある程度資金的に余裕があり、資金を死蔵させず運用したい場合に検討される方法です。
大企業や資金潤沢な事業者が、眠らせるには惜しい資金を少しでも活用したい際に選択するケースが見られます。
ただし中小企業にとっては信託運用益は微々たるものかもしれず、手間との兼ね合いになります。

どの方法を選ぶべきか?判断のポイント

以上3つの方法にはそれぞれ一長一短があります。選択の際には以下のポイントを考慮しましょう。

事業規模と資金繰り: 小規模で発行保証金額も小さいうちは、シンプルな現金供託で済ませるケースが多いです。
逆に規模が大きく金額も巨額になると、すべて現金で積むのは難しくなるため、保証契約や信託を組み合わせることも検討されます。
自社の資金ボリュームに応じて現実的な手段を選びます。

キャッシュフローの余裕: 成長途上で資金需要が高い企業ほど、現金供託は重荷になります。
その場合は銀行保証で資金流出を抑える方が得策でしょう。
一方、安定成長期でキャッシュが潤沢にあるなら、あえてコストを払って保証を付けるより現金で供託してしまった方がコスト節減になります。

リスク許容度: 信託は運用成果が不確定であり、運用先のリスクもゼロではありません(法律上、安全資産に限られますが、市場変動リスクはあります)。
絶対確実を期すなら現金供託か銀行保証が無難です。
多少のリスクを取ってもコスト削減や利回り確保を狙うなら信託も選択肢に入るでしょう。

中には複数の方法を併用するケースもあります。
例えば半分を現金供託し、残り半分を銀行保証で賄う、といった形です​。
これは供託額とコストのバランスを取る工夫ですが、一般的にはどれか一つの方法で全額を保全する企業が多いようです。

まとめ

発行保証金の保全義務に対応する3つの方法(供託・銀行保証・信託)について、それぞれの特徴とメリット・デメリットを比較しました。
簡便だが資金拘束の大きい「供託」, コストはかかるが資金流出を抑えられる「銀行保証」, 資金を運用しつつ保全できる可能性のある「信託」と、どれも一長一短があります。
自社の資金状況や成長戦略に照らし合わせて、最適な方法を選択することが重要です。

中小企業やスタートアップの場合、まずは現金供託でスタートし、事業拡大に伴い銀行保証に切り替える、といった段階的対応も考えられます。
また、実際の手続きには専門知識が必要な場面もあるため、金融機関や専門家と相談しながら進めると安心です。
いずれの方法を取るにせよ、ユーザーの前払い資金を確実に保全することが何より大切です。
法令に則った適切な方法で発行保証金を備え、利用者から信頼される安心・安全なプリペイドサービス運営を心がけましょう。

(著者:徐)