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■投資運用会社への行政処分事例から読み解く(2023.02)

報道発表
  • 2022年7月15日、金融庁は、証券取引等監視委員会からの勧告を受け、株式会社エスコンアセットマネジメント(以下「当会社」)に対して、業務停止命令(3ヶ月)及び業務改善命令の行政処分を行った旨を発表。
  • 当会社は、エスコンジャパンリート投資法人から委託を受けて行う資産の運用において、当会社の親会社からの取得となる不動産の鑑定評価に関して以下の不適切な行為を行ったことから、金融商品取引法第42条第1項に定める「忠実義務」に違反するものと認められた。

①不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけ

 不動産鑑定業者から提示された鑑定評価額に係る中間報告又は概算額が、親会社の売却希望価格に満たなか

 った物件について、親会社の売却希望価格を伝達する等した上で、鑑定評価額が当該売却希望価格を上回る

 よう不動産鑑定業者に対して不適切な働きかけを行っていた。

②不適切な不動産鑑定業者選定プロセス

 親会社からの取得となる物件の不動産鑑定評価を依頼する際、親会社の売却希望価格を上回る鑑定評価額を

 得るとを企図して、複数の不動産鑑定業者から不動産鑑定評価に係る概算額を聴取し、その内最も高い概算

 額を提示した不動産鑑定業者の鑑定報酬額が最も廉価になるよう、当該鑑定業者と交渉。更に、当該鑑定業

 者による概算額が最も高かったことを伏せた上で、当該鑑定業者の鑑定報酬額が最も廉価であることを理由

 に当該鑑定業者を依頼先として選定。

[出典]

・「株式会社エスコンアセットマネジメントに対する検査結果に基づく勧告について」

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2022/2022/20220617-4.html (証券取引等監視委員会HPより)

・「株式会社エスコンアセットマネジメントに対する行政処分について」

https://www.fsa.go.jp/news/r4/shouken/20220715.html (金融庁HPより)

規制解説

1.投資法人と投資運用会社  

  • 投資法人は、「投資信託及び投資法人に関する法律」(以下「投信法」)に基づき、資産を主として特定資産(不動産・不動産の賃借権等、投信法第2条第1項等に規定する特定資産をいう)に対して投資・運用することを目的に設立された社団で、通常、金融商品取引法(以下「金商法」)に基づき投資運用業(金商法第2条第8項12号イ)の登録を受けた運用会社(以下「運用会社」)との間で資産運用委託契約を締結し、資産の運用を委託する。委託を受けた運用会社は、投信法及び金商法の規制に基づき、投資法人の資産を運用することになる。

2.投資法人と運用会社における鑑定評価  

  • 投信法では、運用会社に対して、運用の指図を行う財産について土地・建物等(以下「不動産等」)の取得又は譲渡が行われた時は、利害関係人等ではない不動産鑑定士による鑑定評価の実施を義務付けている。また、投資法人には、投信法に基づき各営業期間にかかる資産運用報告の作成が義務付けられ、当該報告には、「投資法人の現況に関する事項」として「物件ごとに当期末現在における価格」を記載する(投資法人の計算に関する規則第71~73条)。実際は、投資法人の規約等において、資産運用報告で記載する不動産等の価格は“利害関係のない不動産鑑定士による鑑定評価額による”旨等が規定され、営業期間ごとに鑑定評価等が実施されるケースが多い。
ポイント
実務上、投資家(受益者)に対して投資対象である不動産等の鑑定評価結果や鑑定評価書(写)が開示されることも多く、鑑定評価は、投資家(受益者)の投資判断に影響する情報としてその重要性が増している。また、不動産証券化商品等が増え、鑑定評価が求められる場面も複雑化・多様化し、不動産鑑定士等に求められる知識・経験・責任等も高度化している。

3.運用会社の忠実義務  

  • 運用会社は、金商法第42条第1項に基づき、権利者のため忠実に投資運用業を行う「忠実義務」が課せられている。特に、不動産等(原資産を不動産とする金融商品を含む)を主たる投資対象とする運用会社は、利益相反取引防止態勢として、不動産等の取得・売却時の鑑定評価取得や鑑定評価額を基準にした適正・公正な取引価格の決定等が求められ、投資運用業の登録手続きにおいては、こうした不動産の適正かつ公正なデューディリジェンスを実現する為の意思決定プロセス・業務分掌・外部委託・利益相反管理態勢等を決定し、社内規程へ記載し実施することが求められている。
ポイント
権利者のための忠実義務が課せられる運用会社にとって、利益相反取引を適切に管理した上で、中立かつ客観的な立場による適正な不動産鑑定評価を取得し、不動産取引・価格の適正性や公平性を維持することは、当然の要請となっている。
専門家の視点

1.今回の行政処分の影響  

  • 今回問題視された行為は、いずれも「親会社が保有する不動産を、親会社の売却希望価格以上で投資法人に取得させることを最優先とした不適切な行為」。これは、投資法人資産運用会社に限らず、不動産関連特定投資運用業者や不動産特定共同事業者でも、同様の構造・課題を抱えている。

 不動産等が関係するスキームでは、財産基盤が良好な大手が関与することも多く、自ずと「親会社/子会

 社/当社が保有する不動産を組み入れる」「運用中のAM・PMはグループ会社に委託する」等、利害関係

  人との取引が発生しやすい。その際、金融商品取引業者等は、その許認可上の要請として利益相反管理の

  重要性を理解しているが、その親会社・子会社等には通じず、実際は親会社からの圧力等で取引価格や取

  引時期等が強制される事も耳にする。実際、弊社が金融商品取引業者等の内部監査を行った結果、ファン

  ドの不動産取引価格の適切性や鑑定評価を行った鑑定士等の独立性の観点で「×」がつく事例も一定存在

 している。

 今回の行政処分を受け、「明日は我が身」と襟を正した事業者も多いはず。金融商品取引業者・不動産特定共同事業者ともに、親会社・子会社も含めたグループ全体として利益相反管理の重要性を理解することが必要だ。また、ライセンス取得時に構築した内部管理態勢が形骸化しているケースもある為、改めて、自社内で管理する利害関係人・利益相反取引の内容を確認し、社内規程の内容と実態に相違が生じていないか/実態をふまえて適切な内容になっているか等の確認・検証を行うべきだ。

2.今後の検査動向  

  • 投資法人関係の行政処分事例は、2008年に数件発生して以来、今回約14年ぶり。名の知れた大手事業者案件への処分事例で注目を集めているが、今後の証券検査の動向も気になるところだ。

  過去の行政処分事例を見ると、金融商品取引法施行年から翌年にかけて(2007-2008年)、4案件の投資法人関係の行政処分が出ている。更に遡ると、金融商品取引法施行前の2006年にも複数の投資法人関係の行政処分が立て続けに出ており、投資法人関係の行政処分は「続く」傾向にある。

 また、2023年1月27日に発表された「証券取引等監視委員会 中期活動方針(第11期:2023年から2025年)」では、「リスクベースアプローチに基づく証券検査/投資者被害事案に対する積極的な取組み/非定型・新類型の事案等に対する対応力強化」等の方針が挙げられ、リスクベースで検査先を選定し、実質的に意味のある検証等に努める旨等が示されている。実際、コロナ以降、検査自体は減っている印象だったが、この半年程で顧客から「検査が入った」と報告を受ける頻度がじわじわと増えている。投資法人資産運用会社はもちろん、金融商品取引業者は、いつ検査が入っても問題ないように改めて社内管理態勢の確認・検証・見直し等が必要だ。

[参考]

・「行政処分事例集」

https://www.fsa.go.jp/status/s_jirei/kouhyou.html (金融庁HPより)

・「証券取引等監視委員会 中期活動方針(第11期:2023年~2025年)」

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2023/2023/20230127-1.html (証券取引等監視委員会HPより)

以上

[執筆者情報]

主任コンサルタント 行政書士 増野 佐智子

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