行政書士の業務内容と他士業との違い
投稿日:2025年4月17日
―行政手続の専門家をどう使い分けるか、実務判断のポイント―
官公署への申請や届け出を行う際、「誰に依頼すればよいのか」が分からず立ち止まってしまうケースは少なくありません。
書類作成を中心に活躍する士業の中でも、行政書士は“行政手続のプロフェッショナル”として、他士業とは明確に役割が異なります。
本記事では、行政書士の業務内容と、弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士との業務分担を比較しながら、「どの専門家に何を依頼すべきか」の判断基準を実務的に整理します。

1|行政書士とは ― 官公署手続の専門家
行政書士は、行政書士法第1条の2に基づき、以下の業務を独占的に行える国家資格者です:
- 官公署に提出する許認可等の申請書類の作成・提出代理
- 権利義務・事実証明に関する書類の作成(契約書、遺産分割協議書など)
これらの業務は、「報酬を得て業として行うこと」が行政書士の独占業務であり、無資格者による有償対応は法令違反となります。
行政書士が活躍する典型例:
- 建設業許可、産廃業許可など各種「許認可」取得の代理
- 外国人の在留資格変更や更新申請(入管取次行政書士)
- 会社設立時の定款作成・電子認証
- 遺産分割協議書や内容証明郵便の文案作成(非争訟性に限る)
他の士業との違い
2|弁護士との違い ― 紛争対応は弁護士の専管
弁護士は、訴訟行為・和解交渉・法律相談など、司法手続すべてを取り扱える唯一の士業です。行政書士と異なり、「争訟性がある案件」にも対応可能です。
違いのポイント:
- 行政不服申立ての代理行為(審査請求・異議申立てなど)は、原則弁護士に限られます(特定行政書士を除く)。
- 書類作成であっても、法的紛争が顕在化しているもの(例:損害賠償請求書)は弁護士の領域です。
- 判断軸:「法的な対立構造があるか?」を見極めることが重要です。トラブル化している案件は、最初から弁護士に相談すべきです。
3|司法書士との違い ― 登記と裁判所関係は司法書士
司法書士は、不動産登記や会社登記の代理業務を独占的に行える資格です。また、一部の民事訴訟代理も担えます(簡裁訴訟代理等関係業務)。
主な司法書士業務:
- 不動産の所有権移転・抵当権設定等の登記手続
- 法人設立時の商業登記申請
- 一定条件を満たすと簡易裁判所における訴訟代理
行政書士は登記そのものを行うことはできません。
登記に関する添付資料の作成支援までが業務範囲であり、登記申請書の提出代理は司法書士の独占領域です。
4|税理士との違い ― 税務書類と申告は税理士に限定
税理士は、税務書類の作成・提出代行・税務相談の専門家です。税務代理権は税理士法によって厳格に守られています。
行政書士ができること:
- 青色申告承認申請書の作成補助
- 開業届等の提出書類支援
- 経理記帳代行
税額計算や申告書の作成・提出、税務相談など、税務判断を伴う業務は行政書士には不可です。
事業者向けの税関連対応では、税理士との連携が前提となります。
5|社会保険労務士との違い ― 社保・労働法務は社労士の領域
社会保険労務士(社労士)は、労働社会保険に関する手続や、企業の労務管理に特化した国家資格者です。
主な業務としては、雇用保険や健康保険、厚生年金などの手続書類の作成・提出代行に加え、就業規則の作成、労務トラブルに関する相談対応などが挙げられます。
一方、行政書士も企業法務の一環として、一部の文書作成に携わることがあります。
ただし、これらの業務は「社会保険や労務手続そのもの」を含まない範囲に限定されており、社会保険の届出や助成金申請など、法律で社労士の独占業務とされている手続については、行政書士が扱うことはできません。
実務上、就業規則の作成支援などで両資格が重なる場面もありますが、その場合でも制度への精通度や申請手続の代理権限といった観点から、労務管理の包括的な対応が求められる場合は社労士に依頼するのが原則となります。
6|どの士業に何を頼むべきか ― 実務判断における基本整理
各士業には法律で定められた業務範囲と独占業務が存在します。
そのため、依頼内容に応じて「誰に、どこまで依頼すべきか」を明確に見極めることが、手続の正確性とスピードを確保するうえで重要です。
たとえば、建設業や風俗営業などの行政許認可申請は行政書士の専門分野であり、スムーズな取得を目指すなら行政書士に依頼するのが適切です。
一方で、万が一のトラブルに備えて契約上の権利義務に関する判断や代理が必要な場合には、弁護士の関与が必要となります。
また、不動産の登記申請は司法書士、税務申告は税理士、雇用保険や社会保険の手続きは社労士がそれぞれの専門分野となっており、行政書士はそれらの制度の“周辺”業務には関与できても、核心部分には踏み込めないのが現実です。
このように、目的と書類の種類によって適切な士業は変わります。
「誰に依頼するか」は、法的リスクを回避するうえでも極めて重要な判断となるのです。
(著者:徐)