清水 侑

基準率の錯誤

分析は、正しい方法を知らないと、判断を誤ります。

今日面談した補助金提携を希望する会社の担当者は、事業再構築の採択事例を分析してました。

しかし、分析方法に「よくある認知エラーが入っているのではないか」と思えます。
(具体的な内容は後述します)

本当に誤りだとしたら、誤りだと言われるのは面白くないでしょうが、
誤りだとわかっているのに伝えないのも不誠実です。

そこで、分析方法の誤りを直接には指摘せず、

・採択結果だけでは大事な情報が足りず、分析は難しいこと
・確実に効果があるのは、要領の要件や審査項目を満たすこと
・人に何かを伝える基本に則ること

という話をしました。担当者は、納得してくれたようでした。
(是非、「SGにお願いしたい」というようなことを言ってくれました)

さて、分析方法の誤りの具体的な内容です。

「基準率の錯誤」です。

「基準率」とは統計や確率の概念で、特定条件をもたないグループがもつ確率です。

わかりやすくするため、具体例を挙げます。

今回、事業最構築補助金の採択結果の中で、
クリーニング業者による業務用洗濯機等導入事業が10個ありました。

これだけで、「同様の申請は、採択される可能性がある」と判断するのは、
誤りを生みやすくします。

なぜなら、同様の申請数を知らないからです。以下二つのケースを見てください。

①採択数10/同様の申請数30

②採択数10/同様の申請数300

①と②では、随分と印象が違いませんか。

①の採択率は33%なので、やってもいいと思えます。②の採択率は3%なので、やらないはずです。

そして、現実が②の可能性は否定できません。
しかし、多くの人が採択数だけを見て、採択される可能性があると直感的に判断してしまいます。

これは、「基準率の錯誤」と呼ばれる現象です。

つまり、採択数という目に見える情報だけで判断し、基準率を無視した結果、
判断を誤ってしまうのです。

もし、私たちが本当にコンサルティングをしたければ、
有意義な分析ができる能力は必ず役立ちます。

そして、有意義な分析に基準率は必須です。
基準率がわからなければ、その分析は諦め、他視点での分析が賢明に思います。

参考文献を載せます。

ノーベル経済学を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト・アンド・スロー』です。

著者は、直感的にエラーを起こす思考を「ファスト(システム1)」、
冷静にエラーを起こさない思考を「スロー(システム2)」と説明します。
どういうときに人が「ファスト(システム1)に陥るのか、
そのパターンや理由を、行動経済学、認知心理学の実験で解明します。

この本を中身を身につけると、思い込みや勘違い等による判断エラーが少なくなり、
誰かの判断エラーにも惑わされなくなります。

名著です。興味があれば、ぜひ読んでみてください。

『ファスト・アンド・スロー』(ダニエル・カーネマン、早川書房)