鈴木 徹司

行政書士の将来性


行政書士の将来性については、

両極端なほど、大きく離れた2つの見方がある。

 
ひとつは、「食えない」「過当競争」「仕事がない」といった

悲観的な論調だ。

新人行政書士たちが、仕事を取るのに苦労しているのはよく知っているし、

一定の競争があって、差別化していかないと依頼を受けることが難しいという現状は、

その通りだ。

 
もうひとつは、「業務の幅が広い」「国際化の波に乗れる」「専門性を活かせる」

といった将来が明るいという論調だ。

私の身近にいる行政書士は、こちらの感覚が主流になっているように思う。

私もこの感覚を持つ一人なので、その根拠を含めて論じたい。

 
まず他の業界と比べて有利な点を列挙してみる。

 
■専門家に任せようというトレンドがある

昔は、中堅規模以上の会社には、経理部、人事部、宣伝部、システム部、総務部、法務部なんかがあって、細分化された部内で、多くの業務をこなしていた。

会社によっていは、財務部、購買部、採用部、広報部、企画部とかもあったから、

社内の業務を知るだけでも大変なくらい会社は社会の縮図のようになっていた。

業務は、基本的に社内で行い、どうしても社内でこなせない業務のみを社外へ外注していた。

ところが、時代は変わり、会社はすべての業務を抱え込むことの非効率性に気づき、

優秀な人材だけを本業に集中的に投入するという戦略を採るようになった。

今から見ると、当たり前のようだが、会社組織のあり方が変わった。

以来、できるだけ社外に依頼して、変動費化しようという試みが続いている。

行政書士は、許認可の専門家であるが、許認可を管理する業務についても、法務部や総務部ですべて引き受けるのではなく、社内で行うべき経営判断や最低限の管理を除いて、

社外の専門家を活用しようというトレンドがある。

 
 
■強力な競争相手がいない

コンサルティング業務やアウトソーシング業務は、多くの会社が事業として取り組んでいるため、一般的には、過当競争に陥りやすいが、

行政書士業務は、株式会社は参入はできなくて、

行政書士事務所または行政書士法人として業務を行わないといけないため、

かなり参入障壁が高い。

また、国家資格も必要で、法律系の資格としては、比較的難易度が低いものの、合格率は1割前後で推移しているので、たやすくは資格を取ることはできない。

現在、全国に行政書士は、45,000人いるが、法人組織となっているのは200社程度しかなく、個人経営やそれに準ずる経営母体が主流で、会社経営として取り組んでいるのはごく一部に限られる。

 
■潜在的な市場が大きい

日本全国の会社が、行政向けの手続きに要する人件費の合計をざくっと計算してみた。

就業者の平均賃金は、400万円

就業者が、業務時間の平均1%を行政手続きに充てていると仮定。

(営業マンや総務担当者などをすべての職種を平均して)

就業者は、全国で6000万人

400万円×1%×6000万人=2.4兆円

このうち、簡易な手続きなどを除いて、行政書士という専門家が受任できる範囲が1割とすると、

2.4兆円×1割=2,400億円

かなり低く見積もっても、国内だけでも巨大市場がある。

 
■国際化は追い風になる

許認可を扱う専門家にとって、国際化は歓迎される。

例えば、A社が、国内だけから、中国、韓国へと海外展開したとすると、

関係する許認可の数は、3倍になる。

許認可は、基本的に各国で独自に定められていて、

その国で事業をするには、その国の許認可が必要になるからだ。

これは、日本に進出してくる海外企業にとっても同様で、

日本で事業展開するには、海外企業にとっては分かりにくい日本の許認可が必要となる。

今後、ますます日本企業と外資系企業が入り乱れての競争になっていくので、

業務範囲は数倍に広がっていくと考えられる。