清水 侑

生成AIに関する事柄とホワイトカラーの処し方について

2024年10月末、ChatGPTにWeb検索機能「ChatGPT Search」が追加されました。
これまでもWeb検索機能はあったのですが、より迅速に最新の情報が取得でき、
ソースリンクが標準で表示されています。

その約1ヶ月前にリリースされた高度な音声機能では、
返答までの時間がこれまでの数秒からほぼ即時に短縮され、
まるで本当に誰かと話しているような体験が可能になっています。

生成AIで凄いのは「現時点では何ができるか」もあるのですが、
より重要なのは「進歩が加速度的であること」です。


〇生成AIの凄さは加速度的な進歩である

生成AIは加速度的に進歩しています。
一例として、生成AIが脚光を浴び始めた2022年11月(ChatGPT3.5のリリース)からの
ChatGPTの進歩の推移を下記にまとめてみます。

2023年3月:GPT-4リリース。より高度な自然言語処理能力を持ち、多様なタスクに対応可能に。
2023年5月:ベータ版でWeb検索機能とサードパーティプラグインの使用を提供開始。
2023年7月: 「Code Interpreter」機能のベータ版提供を開始。
2023年7月: ChatGPT Enterprise発表。企業に無制限の高速GPT-4アクセスや高度なデータ分析機能を提供。
2023年9月: 音声入力と画像入力が可能になる「GPT-4V(ビジョン)」を発表。
2023年10月: 「DALL·E 3」のベータ版を公開。テキストから高品質な画像生成が可能に。
2024年2月: 動画生成機能「Sora」を発表。テキストから動画の生成が可能に(一般ユーザーは利用不可)。
2024年5月: 「GPT-4o」をリリース。音声認識、画像(動画)認識の速度が向上し、よりスムーズな対話に。
2024年9月:高度な音声機能をリリース。リアルタイムでの対話が可能に。
2024年10月:Web検索機能「ChatGPT Search」リリース。迅速で最新の情報収集、情報ソース表示が可能。


〇進歩における人間と生成AIの比較

生成AIが2年でこれだけ進歩するのは驚異的です。
人間で考えた場合、それまで出来なかったことができるようになるまで相当な期間がかかります。
もしかしたら、「2年間で何も成長していない」と自身で感じるケースもあるかもしれません。
加えて、人間は以前できたことができなくなったり、身体を壊したり、
老いたり、亡くなったりして、向上させた能力が(共同体ではなく個人としては)失われていきます。

しかし、AIはできるようになったことは忘れず、
(プログラムが破壊されたりエネルギーが枯渇しない限り)壊れず、老いず、死を迎えることはありません。
特定の個人や集団がこの世から去った後の世界でも、
何らかの事情により限界を迎えるまでは、その進歩は止まらないでしょう。
かつ、やろうと思えば一瞬で世界中に学習成果が共有され、それが更なる進歩を生み出します。

今後、AIは個人とは比較の対象とならないほどの圧倒的な知的活動の担い手になっていくと思われます。
個人、大学・企業・国家等の組織、本や電子データといった記録媒体のように、
社会における知的活動の蓄積と発展に係る極めて重要な要素となっていくでしょう。


〇企業ではAI活用によりホワイトカラーは代替されていき、一部で世代間の競争が生まれる

企業でもAIの活用が進み、AIに代替される労働者も出てきます。
現在の日本社会は人手不足と言われていますが、これは一時的なものに過ぎず、
労働者(特にホワイトカラー)の必要人数は少なくなっていくことが予想されます。

すでにアメリカではホワイトカラーの大量リストラが進んでいます。
2024年、アメリカでは高所得のホワイトカラーにおける求人が減少し、リストラが増加しています。
特に年収10万ドル以上の職種での求人減少が顕著であり、
これは生成AIの導入による業務効率化や自動化が一因とされています。

日本では解雇規制があるためすぐにどうこうはないですが、長期的には解雇規制は緩和されるでしょう。
実際、2024年9月には自民党総裁選の候補者である小泉進次郎氏や河野太郎氏が、
成長産業への労働移動を促進するため、解雇規制の緩和を提案しました。
彼らは総裁選では敗れましたが、有力な候補者とされた彼らが、
実質上の日本のリーダーを決める選挙で解雇規制を公約に掲げる程度になっているということは、
すでに解雇規制の緩和は現実味のない話ではないということです。

勿論、企業がAIを活用する場合には、AIを上手に使いこなす一定数の労働者は必要です。
加えて、社会の変化は水面下で起こり、徐々に進み、ある時点を境に急激になるものです。
(例えば、2018年のPayPayのリリース当初には多くの人が「そんなものは使わない」と言っていましたが、
その登録ユーザー数は徐々に増え、それがさらなる利用者の増加を促し、
今では登録ユーザー数は6,500万人を超え、老若男女問わず多くの人々が当然のように利用しています)

とすれば、これまで100人の労働者が必要だった企業が、合理的に経営しようとして、
必要な労働者の数を95人、90人、85人、80人、70人、50人と減らしていくのは、
日本中のいたるところで十分に起こり得るシナリオだと言えます。

一方、プライベートで最近何人かの大学生と話す機会があったのですが、
大学で生成AIは普通に使っているとのことです。
当然、それより下の世代の人たちも生成AIを学校やその他の場所で普通に使っていくことになります。

これが何を意味するかというと、数年後以降、生成AIを当たり前に使いこなす人たちが
下の世代からどんどん出てきて、生成AIを使いこなせない上の世代のホワイトワーカーは、
特殊な能力がない限り彼らに太刀打ちできなくなる可能性があるということです。


〇AIの進歩と普及への反発が顕在化するが、やがて終息する

AIの進歩と普及に伴い、「仕事が奪われる」という恐怖からの反発が様々な形ででてくることが予想されます。
AIの進歩と普及はそのような動きに対する調整が入るでしょうが、
歴史を鑑みても長期的には技術の発展を止めることは難しいと考えられます。

例えば、1811年にイギリスで発生した労働者による機械打ち壊し運動であるラッダイト運動は、
産業革命に伴う機械化の進展により職を失うことへの不安や賃金低下に対する抗議として始まりましたが、
その運動は次第に沈静化し、1813年頃にはほぼ終息しています。
結果、我々は産業革命による機械化の弊害はありつつも、生活の隅々にその多大な恩恵を受けているわけです。

また、昭和時代の日本では多くの家庭に冷蔵設備がなかったため、
氷を木箱に詰めて馬車や自転車で販売する「氷売り」という仕事がありましたが、
1950年以降に家庭用電気冷蔵庫が普及するにつれ氷売りの仕事はなくなっていきました。
殆どの人たちは「「氷売り」を守るために冷蔵庫の使用を禁止しよう」とはならなかったわけです。


〇AIに代替されずらい価値

もちろん、悲観的な面だけではありません。
AIが提供できない価値を提供する人たち、例えば「AIを使って新たな価値や仕組みを生む起業家」、
「AIに学習データを提供できる程のその分野のトップ層」、
「人間として滅茶苦茶おもしろい営業パーソン」、「独創的で魅力的なセンスを持つ芸術家」
「代替が難しい微細な身体の動きを要求する仕事(有能な美容師等)」等は、
これまで以上に活躍の場を広げていくことでしょう。


〇AIを使いこなしつつ、自分なりの価値や面白さを追求する

以上を総合的に考えれば、現時点のホワイトカラーとしては、
「AIを使いこなして、AIを活用できる人材になる」と同時に、
「自分なりのAIが提供できない価値や面白さを模索する」というのが、
かなり打率の高い働き方になるのではないか、と思っています。

当然、社会がいつどのように変化をするのかはわかりません。
もしかしたら、予想不能の事象によりAIの発展が急に止まる可能性も
(非常に少ないですが)ないこともありません。
しかし、いま自分たちが上述のできることをしても損はないわけですから、
個人の戦略としてはできることをしておくに越したことはないような気がしています。