行政手続法第5条、審査基準の公表義務について
投稿日:2024年11月22日
導入
行政手続は、公正かつ透明性を持って行われるべきものであり、その基盤を支える重要な規定の一つが行政手続法第5条です。この条文は、行政庁が審査基準を設定し、公表する義務を明確に規定しています。特に、申請者が行政処分の基準を予測可能な形で理解できるようにすることで、行政裁量の恣意的運用を防ぐ役割を果たします。以下に、第5条の条文を示します。
行政手続法第5条(審査基準)
- 行政庁は、審査基準を定めるものとする。
- 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
- 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
この条文の趣旨や実務的な重要性を理解するため、ここでは審査基準の公表義務違反が争点となった東京高判平成13年6月14日(判時1757号51頁)を中心に考察します。
判例概要
本件では、地方公共団体の一部事務組合が行政財産の使用許可を拒否する処分を行いました。しかし、この処分に先立って審査基準の設定および公表がなされておらず、この点が行政手続法第5条第3項に違反するとして処分の取消しが求められました。裁判所は、審査基準の公表義務を遵守しない場合、その処分が適法とは認められない可能性があると指摘しました。
判決の意義と示唆
東京高裁は、行政庁が審査基準を公表しなかった場合でも、合理的な理由や社会的要請がある場合には例外が認められるとしました。しかし、審査基準の欠如が申請者の権利保護や公平性に直接影響を及ぼす場合、行政処分は違法とされる可能性が高いとしています。この判決は、行政手続法第5条が単なる形式的な規定ではなく、実質的に申請者の権利保護を図る重要な機能を担っていることを示しています。
行政書士としての実務上の注意点
本判例を踏まえると、行政書士法人としてクライアントを代理し、行政庁に申請を行う際、以下の点に留意する必要があることが分かります。
- 審査基準の確認
審査基準が公表されているか、またその内容が明確かどうかを確認します。 - 情報公開請求の活用
審査基準が不明確な場合、情報公開請求を通じて必要な情報を取得することが重要です。 - クライアントへの説明
審査基準が不明確または公表されていない場合、そのリスクを事前にクライアントに説明します。
別の視点からは?
審査基準の公表義務が果たされていない場合、それがもたらす問題は単に「申請者の権利侵害」に留まらないでhそう。本判例が示唆点としては、行政庁が審査基準の公開を怠ることで、自らの裁量権を適切にコントロールする機会を失っている点が含まれます。すなわち、審査基準の設定と公表は、行政庁自身がその権限行使を客観化し、外部からの批判に耐え得る形で運営を行うための「セルフモニタリング」の役割をも果たしているとも考えることができるでしょう。